■猫草、あるいは猫はどこから来たのか。
猫草という植物がある。
そこらのペットショップで売っているので、冗談だと思ったらみてご
らんになるといい。何の変哲もない、長細い緑の草である。
わが家ではこれを鉢植えにして置いているので、バカ猫が思い出した
ときに食べている。猫が雑食だということは前にも書いたが、ヤツが葉
っぱを食べているのをみるのは、それはそれで奇妙な感じがある。はっ
きりいうと、食べるのが下手なのだ。ウサギのように素早く上手に、と
はとてもいかない。まあ、動物ごとに得手不得手があるのはちっともか
まわないのだけれど。
この猫草というもの、正体は燕麦(エンバク)である。と� ��っても、
燕麦という草をを見たことのある人は少ないだろう。まあ、野原に生え
ている細長いよくある草を想像してみてください。猫が食べるのはこい
つの緑の若草で、伸びきって茶色になってしまうと食べないようだ。
いっとき、某全国展開大型量販で売っている猫草は猫が食べない、と
いう噂がネット界をかけめぐったことがあった。私もその某店にある猫
草を見てみたが、香りがまったくしなかった。おそらく流通過程で冷凍
するか、あるいは換気のよくない場所に放置されたのか。いずれにせよ
不良品だった。猫はそんなことを軽く見破ってしまうのだ。むしろ騙さ
れやすい人間のほうが、大型量販で何を食べさせられているかわかった
もんじゃない。いまさら気をつけようとしても遅い� ��だろうが。
さてこの猫草を、なぜ猫は食べるのだろうか。おいしいからだろうと
私は思うが、そんな説明だけでは物足りない方もいらっしゃるらしく、
「猫は体をなめるので毛が胃の中にたまり、毛玉になります。猫は猫草
を食べて毛玉を吐き出すことが必要なのです」という説明をよくみる。
これこそ、現代人の近代的理性がもたらした世界観における誤り、言
語の不完全に基づく誤解、その典型であるといっていい。
だいいち猫が猫草をみて「お、そろそろ毛玉も心配だしニャー、食べ
といたほうがいいかニャ」などという理性的判断をくだしたうえて食べ
ているわけがないじゃないか。あえて猫の気分を表現するなら「お、草
みっけ。食お」という以外には何の雑念もないと思うよ。
「毛玉を吐き出す」。そのために猫草が役立っているとしても、猫草の
役割とはそれだけといってしまっていいのか? おそらく胃腸薬として
の働きもあるだろう。それに草の香りを嗅ぎながらしゃりしゃり食べる
ことに、快感を見いだしてもいるだろうし。その他にも、植物繊維を食
べることの効用とか、人間の気づかない部分でどんなことに役だってい
るか、そのすべてについては推しはかりようもない。そうした多面的な
価値をもつ「猫草を食う」行動を、毛玉にだけ結びつけて理解したつも
りになってはいけない。自然はもっと複雑なのである。ある意味で、本
当は、理解不能なのである。部分だけをわかったつもりになって、その
部分だけが世界のすべてであるなどと、主張してはいけない のだ。