2012年4月6日金曜日

事実だけとは限りません


「観たいDVDを50音順に片っ端から観ていく」企画が昨秋から進行中。
「観たいDVDを片っ端に」といっても、近所のツタヤに置いてないのでとりあえず飛ばしたものも少なくない。加えて、せいぜい1週間に1本のペースなので、早く先に進みたい気持ちもあり、今観るべきか後回し(二巡目)にすべきか迷う作品もある。これもその一つであった。

 いや、監督がミロス・フォアマンだし、ハビエル・バデムがヘタレ神父という素晴らしい役どころだしで、それだけなら公開時に劇場に足を運んでいたんだろうけど、そうしなかったのは、「スペインの異端審問」というただでさえ痛々しいシチュエーションに、審問にかけられるヒロインが、いろんな意味で痛々しいナタリー・ポートマンだからなのであった。
 そういうわけでDVDが出てからも回避し続けてきたのだが、ええい、いずれ観る予定の『ブラックスワン』の予行だ、というわけで今回観た次第である。
 以下、ネタばれ注意。


手がラテン語で意味を残していない

 やー、ハビエル・バデムは予想を超えたヘタレでした。
 18世紀も末、スペインの異端審問でさえ拷問を廃止していた理性の時代、バデム演じる神父は「無実ならば神が拷問に耐える力をお与え下さる」との信念から審問に拷問を復活。ユダヤ教徒であるという嘘の告白を強いられた娘(ポートマン)を救ってくれ、という商人の懇願も一蹴する。怒った商人が神父を捕らえて拷問に掛けると、神父はものの数分で音を上げて己が猿で悪魔の手先であると認めるのであった。
 そこから先は、ヘタレ街道まっしぐらなわけだが、ただ芸もなく転落していくのではない。ナポレオンがスペインを占領すると、その手先として華々しく再登場するのである。いや、素晴らしい。


ここで、最初の飛行機が発明された

 バデム演じる神父の浮き沈みが、ナポレオン前後のスペインを見事に体現しているわけだが、ゴヤの造形もそれらしいし(ステラン・スカルスガルドは自画像に結構似てる)、彼の作品の不穏さを良く反映した造りになっている(ゴヤの作品で始まってゴヤの作品で終わる)。
 そこまでよくできた作品で、ただ一点微妙なのが、やはりナタリー・ポートマンなのであった。


UH- 60 "どのように物事が動く"

 危惧していたのは、彼女一人が浮きまくって台無し、であったが、そこまでひどくはなかった。拷問シーンもかなり短かったし。でもやっぱり全体に微妙……
 彼女の「痛々しさ」の原因の一つが、小柄で童顔という容姿であるのは間違いない。しかし、それは今回のような役柄ではむしろプラスになるはずである。そのプラスを帳消しにするマイナスの痛々しさの原因は……まあ要するに彼女自身の余裕のなさだな。
 巧いんだけど必死すぎて、その必死さが空回ってて痛い。例えば同じく作り込んだ演技でもハビエル・バデムのすべてを計算尽くした上での余裕、みたいなのがなくて、いっぱいいっぱいなのが痛い。しかもそこまでいっぱいいっぱいなのに、なおも頭で考えた演技なのが痛い。
 これでますます『ブラックスワン』が「怖いもの見たさ」と化すなあ。


 これでもかとばかりに不幸な目に遭う薄倖のヒロインと、娼婦に身を持ち崩してるその娘、という二役をやってるわけだが、上記の「痛さ」は母親役のほうに言えることであって、蓮っ葉な娘役の時は登場場面が少ないせいもあってか余裕が感じられ、あんまり痛くなかったのでした。

 後もう一つ難を言うなら、スペイン人もフランス人もイギリス人も全員英語を話すのは、もうちょっとどうにかならなかったんだろうか。もっと昔の作品ならまだしも。せめて訛りを強調するとか。

 前述のように、ゴヤの作品が効果的に使われてるわけだが、その中には「巨人」も含まれている。本人作じゃないと断定されたのは、この映画が公開された3年後ぐらい。
 ここでの使われ方が如実に示しているように、「巨人」はいかにも当時のヨーロッパの混沌を表現しているように、つまりいかにもゴヤっぽい作品に見えるわけだが、でもゴヤ作じゃないんだよね。まあ弟子の作品ではあるわけだから、「ゴヤっぽい」作品であるのは確かなんだけど。



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